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或いはそれは夜の女王
例えるならば、それは魔性



白い肌は絹のよう
靡く髪は黒檀のよう

弧を引く笑みは柘榴の実
射抜く瞳は零下の瞳




満月の夜にざわざわと
新月の夜にじわじわと

蜘蛛のように忍び寄り
絡めたものは離さない



すなわち、それは




例えるならば———










「———魔女だ。」
「なんですって?」
伏せていた瞼をあげて、早夜子はスクエアへと言葉を返した。
平日の、客も疎らな喫茶小夜曲。耳にできる音といえば、ささやかに流れていた有線の音楽と、グラスが擦れる僅かな硬質音。
その、或は静寂ともいえる空間を割いたスクエアの声は、余りにも意外な、そして唐突なものであった。

「いや。」

心地よい音楽と、唇を濡らすその液体と、なによりカウンターに佇むその女の存在の所為であろう。
物思いに耽っていたスクエアは、その思考が無意識に口をついて出ていた事に気付き、思わず口角を引き上げて含み笑いを零した。

「何、この世で二番目に良い女の話さ。」

いまいちスクエアの思惑が読み取れない早夜子は、僅かに柳眉を顰める。
もっとも、もとより彼は唐突に何か思わしげな事を呟く人間であった。しかし、今日のそれは、何時にも増して、真意が掴めない。
小夜子は、その断片的な言葉の意味を理解する事を諦めて、もう一つの疑問へと問いをかえしてみた。

「………一番目は、じゃあ、誰なの?」


「……さあな。」

スクエアは、ぶっきらぼうに言葉を吐いて、煙草の先に火を灯した。
じり。微かに紙と、乾燥した葉が燃える音が耳に届く。
早夜子はそこで、問いただすことを諦めた。







ふ。




紫煙が小夜曲の、空に、舞う。
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———まあ、あらあら…大変。




まったく、派手にやったものね、カーペットが台無しではないの。



———え、いいえ?怒ってなんかいないわ。
やってしまったことは仕方の無い事よ。気になさらないで。




…そうね、それでも。無闇に人を殺してしまうのは良くないわ。



……あら、違うわ、そういう意味ではなかったの。
気を悪くしたのなら謝るわ。ごめんなさい。
ねえ、だから、そういう物騒なものは下げて頂戴。



……そう、そうよ。良い子ね。





―――よくって?人を殺すとその分だけ呪われるのよ。

そんな、呆れたような目でわたくしの事を見ないで頂戴。ねえ、話しを最後まで聞いて?



人は死ぬと永遠となるの。

届かないものとなるのよ。
死んだ想い人以上の人間が現れる事は無いし、
死んだ英雄以上の英雄は現れないわ。


ええ、勿論貴方が今殺したそれが、英雄だなんていわないわ。




けれど、人を一人殺すということは、
己には到底敵わないものを、到底叶わないものを一人、増やすという事よ。



そうして死体が増える度、己を奈落へと突き落としてゆくのだわ。




……あら、退屈だったかしら?

そう、そうね、貴方には関係のない話しだったわね、ごめんなさい。



それでも、そう、もし、自分を奈落へと突き落としてしまったと、

そう、感じてしまった日が来たのなら。

ねえ、わたくしの元へいらっしゃい。








お祝いに、お酒の一杯くらいは、ご馳走してあげるわ。
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